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■東京都-U邸(2016)
 練馬区内にある築150年程の古民家改修。
 豊島園から住宅街を歩くこと10分程、突
如としてけやきの森に囲まれた敷地が現れる。
その場所に一歩足を踏み入れると都心に近い
ことを忘れてしまう別世界。土の匂い、鳥の
鳴き声、木々の間を吹き抜ける風、敷地の外
とは明らかに異なった時間が流れているよう
に感じられる。
 建主ご家族は15年余りに亘る話し合いの
末、『この母屋と自然豊かな庭を地域に開き
多くの人に活用してもらおう』と決心された。
都市部においては面積に余裕のある土地は小
割され宅地分譲というのが特に顕著な傾向の
現代において、地域のためを思う建主ご家族
のご決断には心から感動を覚えた。
 古民家改修の経験も豊富な職人集団による
施工であったが作業は解体時から困難を極め
た。残すべきところ、傷みが酷く新材とすべ
きところ、材の一部のみを取り換えれば良い
ところ、全てが複雑に絡み合っている。当時
の図面は存在せず、目の前にある素材や納ま
りを通じた過去と現代の工人達との対話が繰
り返された。完成が近づくにつれ、新旧の材
料が対比強く存在し、空間そのものにも生気
が蘇ってくるのが感じられた。
 竣工後は音楽会や朗読会などを通じ、建主
と広く地域の人々との交流が始まっている。
こうして長い間、人の温もりから遠ざかって
いた古民家は再び自らの木の架構の内に人々
を迎え入れるという今後100年の役割を与
えられたのである。
All Photos by Mitsumasa Fujitsuka

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