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■蕎麦や もりいろ(2014)
 京急大森町駅商店街の小さなお蕎麦屋さん。
 店主さんは都内有名店で修業をされ独立する
にあたりお父様からこの場所を受け継いだ。お
父様ご自身も39年間この場所で蕎麦店を営ま
れていたが「息子がやるようになったら一切の
口出しはしない」という潔さ。
 新店では『自家製粉石臼挽き手打ち』の本格
的な蕎麦を提供するが敷居の高い店にはしたく
ない。入りやすい雰囲気を漂わせながらなおか
つ凛とした佇まいの蕎麦屋。難しい要望であっ
た。
 界隈はどこにでもある駅前の商店街といった
感じでチェーンの飲食店やレンタルビデオ店の
ド派手な看板が目に付く。街並みに配慮したと
思われる建物はほとんど見られない。厳選され
た香り高い蕎麦を堪能するための落ち着いた空
間にしたい。昼間は目障りな周囲の景観をシャ
ットアウトしながら息苦しさを感じさせないよ
うな配慮が求められる。そのため大開口部には
木製ルーバーを設け自然光だけを取り入れるよ
うにした。また客席の面積に余裕がないが席同
士のほど良い距離感を保たなくてはならない。
席によって天井の高さを所々変え空間の密度を
操作することで心理的に緩やかな境界が生れる
ようにした。
 アプローチの露地は商店街の雑踏から数歩の
うちに異世界の予感を感じてもらうための工夫
である。地植えの露地を設けたのは2階テラス
の植栽とともに道行く人々に季節の移ろいを楽
しんでもらい、わずかだが商店街に潤いをもた
らせたかったためである。露地の面積は2席分
に相当するが、店主さんも快く提案を受け入れ
てくださった。
 竣工から4年が経つが、店主さんはお蕎麦の
味とともに広く地域に愛されるお店に育ててく
ださっているように思う。
All Photos by Mitsumasa Fujitsuka

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