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■文京堂(2019)
 東洋大学の真向かいに位置する旧白山通り
沿いの街の文具店。今年で創業70周年を迎
える文京堂。店を切り盛りするのは3代目ご
当主とその奥様。建物は旧店舗同様、3階建
ての店舗併用住宅。老朽化に伴う建替えプロ
ジェクトである。因みに今回2・3階住居ス
ペースはハウスメーカーの設計施工、弊社が
請け負ったのは店舗の内装設計である。
 1949年戦後間もない時期、元手のかか
らない商売の一つが文具店だったそうだ。開
業地の候補として早稲田大学近隣もあったそ
うだが物件事情等も考慮の末この地に落ち着
いた。創業者の先見の明あり、東洋大学の教
職員・学生が顧客全体に占める割合は多い。
文具はもちろん印刷所を兼ね備えているため
論文の印刷製本が容易に依頼できる為である。
 地域住民にとっても商品ラインナップの幅
広さは魅力的である。のりやテープといった
一般的な文具に加え、高級文具、ガラス工芸
家の作品、京都から取り寄せるお香などの和
物雑貨、キッズアイテムetc…ギフトになるも
のも充実している。
 印刷製本、幅広い商品群が魅力の文京堂だ
がご当主と奥様が何より大切にされているの
がレターセット。紙の質感やデザインの豊富
さが楽しくて何よりご自身たちが好きなのだ
そうだ。PC・スマホの時代でも紙の手触り
や相手の顔を思い浮かべながら好みのペンで
手紙を書く楽しみを多くの人に伝えたいそう
だ。売り場構成もレターセットを中心に検討
を重ね、ウィンドウにはチークのヴィンテー
ジ机を置き書斎風に演出。
 アプローチの引戸を開けるとジャズやクラ
シック音楽が聞こえてくる。良い音楽と落ち
着いた空間で毎日使う文具をじっくり選んで
文京堂でのひと時を楽しんでもらえたらとの
こと。空間をデザインする側としても普及品
から高級品まで全ての商品の背景として一つ
一つのアイテムを最大限引き立てる為に空間
の密度、素材の選定、色彩計画、照明計画、
ディテールを練り上げていった。ロンドンの
ハッチャーズ・ブックセラーズ、パリのリブ
レリ・ジュソームといった歴史ある書店のよ
うにこれからも永く地域に愛され人々の記憶
に残る文具店となってくれたら幸いである。

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