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■苔原さんの家(2021)
 修業時代から長年お世話になっている大工
さん一家のご自宅。
 先代の苔原順二棟梁が1999年に立上げ
た(有)建築苔原さんは多くの建築家の方と
手を携え、200軒を優に超える家づくりを
して来られた。現在はご子息2人が棟梁の意
を継ぎ仕事に励んでおられる。
 お施主さんからの信頼厚く日々多忙を極め
る建築苔原さん、一家に腕利きの大工さんが
3人もいながら自宅の屋根が雨漏りしようと
構っている暇などなく、まさに紺屋の白袴よ
ろしくである。とうとう棟梁の奥様の堪忍袋
の緒が切れて…。なんともドラマチックに建
て替え計画がスタートした。ご子息2人から
「これまで建築苔原を陰で支えてくれたおふ
くろへの恩返しに…」と胸の内を告げられ、
自分の母親の家を設計する思いで向き合った。
 お母さんの予てからのご要望は明るい台所。
北側道路に面した1階下屋部分に台所を配置。
上部にトップライトを設けたが方位の関係で
真夏でも早朝の朝日以外、直射光が入ること
はなくやさしい自然光のもとで台所仕事がで
きる。浴室も台所に近く、棟梁の日々のお世
話を無理なくできる配置とした。仏間を兼ね
た6畳の和室は、2人のお子さんがいる次男
さんご一家が訪れた際の寝室にもなる。
 2階は棟梁とお母さんそれぞれの寝室に加
え、テラスと一体利用のできる内干し場を兼
ねた家事室を配置。寝室前の廊下には着物も
仕舞える幅2.7m、高さ2.2mの大きな
衣類収納を設けた。
 3階はご長男の寝室と広めのテラス。独特
の世界観と美学を持つご長男が自由に作って
使えるこの家一番のおもしろスペースである。
テラスでは近い将来次男さんのお子さん達が
ビニールプールで遊んだり、バーベキューを
楽しんだりする様子が目に浮かぶ。
 平入りの外観は、三重県鵜殿村におられた
棟梁のお母様が「栄える家は平入りの造りが
多い」と生前語られていたとのお話を受けて
のことである。今はお会いすることも叶わな
い方の思いまで取り入れられたら、どんなに
素晴らしいことだろうと素直に思えた。
 嘗て家には、生命の誕生から終わりまでの
全てを見届ける包容力があったがその在り様
も時代とともに変わり、家族のアイデンティ
ティーのもととなる諸々の重要な行事は便利
なサービスという形をとりながら徐々に玄関
を出ていった。結果、多くの家は個々の家族
にとってなんら必然性のない商品化された箱
としての性格を帯びたまま増殖を続けている。
そのこと自体は単なる結果であって良し悪し
の問題ではない。しかし、人間の魂の安らぎ
の場であり支えともなるべきはずの家が簡単
に消費されてしまう商品化された「スタイル」
や「イメージ」ではあまりに頼りない。時代
に左右されず、時間を超えて家族の思いと共
に住み継がれていく強靭な家の在り様とは。
その答えは少なくとも家族の数だけあること
は確かだ。これからも探し続けていきたい。

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